



小室大輔 こむろ だいすけ ドイツ・ケルン ドイツ、オランダ、オーストリア、スイス
建築、環境
建築の設備設計者として東京の設計事務所に勤務後、建築と環境とのつながりを求めて1998年に渡独。ドイツの設計事務所勤務を経て、現在はケルンで建築保存と再生の研究に関わりながら、環境や資源、循環という視点で建築をとらえた執筆活動を展開中。また建築関連の視察同行や案内も手がけ、ドイツだけでなく、スイスやオーストリア、オランダの建築にも詳しい。専攻は建築環境学という独自性を活かし、自然の働きかけをうまく取り入れることのできる建築を目指した設計事務所を、近い将来、日本とドイツで開設したいと考えている。趣味の一つは、多言語の習得。札幌出身。一級建築士。
▼著書:パッシブ建築手法事典(共著、彰国社、2000年)
▽コラム:建築技術 光と風の時間 2004年5月-2005年12月掲載/朝日新聞 世界のウチ
▽ドイツの建築に関する記事や報告:日経アーキテクチュア(日経BP社)/コア東京(東京都建築士事務所協会)/建築東京(東京都建築士会)/建築設備士(建築設備技術者協会)/BE建築設備(建築設備綜合協会)など
▽E-mailアドレス:komurin(at)wb3.so-net.ne.jp ←(at)の部分を@に置き換えてください。
パッシブ建築設計手法事典
小室大輔(共著)
彰国社
特別な動力機器を用いず、自然の要素である太陽光、太陽熱、風、雨水、大地等のもつ性質を、建築的に利用して室内気候調節を行おうとするのが、パッシブ設計の考え方です。本書は、そのパッシブ建築設計手法を、「屋根の形と熱のコントロール」など、35項目に分類し、それぞれ、基礎資料、手法の原理、設計の要点、事例、補足事項などの内容で構成し、この手法で設計を行おうとする際の入門書、あるは手引書としてご活用いただけるよう心掛けました。また、21世紀の新たな時代の要請に対応できるよう、基礎資料や事例なども最新のものを多く集めることに努めました。(「MARC」データベースより)
旧刑務所はすてきな新居2010年2月13日
筆者 ドイツ・小室大輔 ちょっと変わった好条件
モデルルーム用に外装の一部を補修した改修前のベルリン・カンプス
開放的なバルコニーが設置された改修後のベルリン・カンプス
旧刑務所とは思えないモデルルーム内の居住空間
綺麗に改修されたモデルルーム内の浴室
旧東ベルリンの象徴の一つであるテレビ塔がそびえ立つアレキサンダー広場から、南東へ4キロほどのところに、ルンメルスブルクという運河を利用した人工湖がある。その周囲はベルリンの壁が崩壊してから、新たな住居が次々に開発されてきたところで、ベルリンの中でも注目される新しい住居再開発地区の一つである。
その中でもひときわ話題を呼んだのが、ベルリン・カンプスと呼ばれる、かつての刑務所を集合住宅に改修した事例だ。「あなたは刑務所だった建物に住めますか?」という挑発的な宣伝文句が注目を集めたこの建物は、1879年に身寄りのない子どもたちの養護施設として建てられたものである。その後、冷戦時代には刑務所として使われていたが、東西ドイツの統一を境に閉鎖され、そのまま廃墟と化していたいわく付きの物件だ。
この建物を住宅に改修するという大胆な計画が生まれた背景には、プロイセン時代の面影を残す貴重な文化的遺産として認められたという経緯が大きく関係している。そして、この周囲が新たな住居地区として生まれ変わるのにあわせて、その重厚な外壁や高い天井などに注目が集まり、住宅として再生するに十分な価値があると高く評価された結果、2006年から改修が始まったのである。
案内してくれた不動産会社のゲォルトさんと一緒にモデルルームに入ると、かつて刑務所だったという雰囲気などまったく感じさせない新築同様の瀟洒な空間が広がっている。彼によると、この物件の注目度はドイツ国内外を問わず極めて高く、改修工事が始まる前に150戸が完売したという。購入者にとって、かつての刑務所に住むことに対する不安や嫌悪感はまったくなかったようだ。
ベルリン・カンプスを訪れると、安らぎや落ち着きといった住まうことの本質は決して新築だけから得られるものではなく、歴史ある建物に身を委ねることから体感できる充足感もまた他の何にも代えがたい、とてもぜいたくなことであることに気づかされる。歴史を携えた「古さ」を大切な資産の一つとして建築の価値を高めて行く手法は、とても地味な取り組みだけれども、それは社会の成熟を示す一つの証に違いない。
その昔、刑務所だった建物が住居として生まれ変わることなど普通では考えられないことである。でも、住まいに求められる価値を冷静に判断できる人にとっては、刑務所だったという過去の歴史など、質の高い生活空間にまつわるちょっとした挿話の一つに過ぎないのだろう。
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